中国専利代理事務所の最新動向

2021年8月15日
アジア特許情報研究会:伊藤徹男

1.はじめに

中国特許出願に際しては様々な問題があるが、出願事務を取扱う代理事務所については論稿も少なく、競合他社とのコンフリクトなどを考慮して代理事務所を選択するにもその指標となるものがほとんど示されていない。2012年に「中国代理人事務所を評価する」として1985~2010年発行データを基に特許、実用新案、意匠、商標の取扱数や取扱いランキングについてまとめ、各種のセミナーなどで紹介してきました(資料の一部を参考別表図で紹介)。2016年には、2011年以降急増した専利代理事務所の状況を「新興専利代理事務所の動向」として取りまとめました。さらに5年を経た現在の状況を概観すべく本稿をまとめることにしました。

中国特許庁ホームページには専利代理事務所データベースがあり1)、事務所名称や事務所コードから検索して住所、代表者名などを確認することができます。2010年時点で873社であった代理事務所も2015年には1575社となり、2021年8月現在では3706社と大幅に増加しています。これは2009年の第3次法改正で、それまでは外国出願人からの出願事務は「渉外専利代理事務所」という特別に許可された事務所だけが取り扱いを許されていましたが、認可専利代理事務所あるいは弁護士事務所であればどの事務所でも国内外の専利代理業務をすることが可能となったことも影響しています。(出願事務の自由化)

最近では「知了網」2) 、「産業情報網」3)などのインターネットで代理事務所の取扱数、登録数のランキングなどが紹介されるようになり、さらに代理事務所に関する統計情報4)も報告されています。また。2012年以降、日本のベンダーさんからも「中国特許事務所年鑑」として代理事務所情報や出願状況の簡易解析なども毎年発行されるようになりましたので、これらの情報も参考にできるようになりました。

2.中国特許出願取扱い状況

本稿では主として2016-2020年の公開特許について代理事務所取扱状況の概略を紹介します。

(1)特許出願取扱いランキング

2016-2020年公開特許100件以上を取扱った約1000社を対象に解析しました。その内、870社は内国出願人のみの取扱いです。特許取扱いランキング上位20社を表1に示しました。参考情報として10年前の2006-2010年公開特許および実案取扱数も紹介しています。表では代理事務所名の「专利代理有限公司」「知识产权代理有限公司」「律师事务所(法律事務所)」などは省略しました(以下の表も同様)。因みに、2006-2010年公開特許取扱いTOP10は表2ですが大きく様変わりしています。

黄色く示した代理事務所は2010年前後から取扱いを始めた、いわゆる新興事務所です。新興事務所の多くは実案取扱数も多い。また、薄い青で示した「中国国际(贸易促进委员会专利商标事务所)」は2020年公開から「中国贸促会」に、「广州粤高专利代理有限公司」は2009年から「广州粤高专利商标代理有限公司」に、それぞれ社名を変更していますので、代理事務所名で検索するときには注意が必要です。
その他、事務所の名称を変更した著名なところとしては以下があります。
「隆天国际知识产权代理有限公司」 ⇒ 「隆天知识产权代理有限公司」  2015年~
「北京金信立方知识产权代理有限公司」 ⇒ 「北京金信知识产权代理有限公司」 2014年~

表1.公開特許取扱いTOP20

表2.2006-2010年公開特許取扱いTOP10(公開特許数)

(2)外国出願人取扱いランキング

外国出願人として日本、欧米、韓国別に取扱い数およびその比率を示したものが表3です(日本出願人公開数でソート)。欧米および韓国出願人でランキングすると表4のようになります。
いずれも国コードを基に抽出しましたが、通常の検索と同様、筆頭出願人の国コードで検索されますので、内国合弁会社との共願などの場合には「中国」として抽出されてしまいます。
例えば、「上汽大众汽车有限公司; SAIC VOLKSWAGEN AUTOMOTIVE CO. LTD./大众汽车股份公司; VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT」(AN:CN201711488692.9)のような場合には「欧米」として抽出されません。中国内国出願扱いとなります。

表3.外国出願人取扱いランキング

ランク外の日本出願人取扱い比率が高い事務所として「北京华夏正合」(1580件/48%)があります。

表4.欧米、韓国出願人公開特許取扱いランキング

ランク外の欧米出願人取扱い比率が高い事務所として「北京坤瑞」(3723件/80%)、「北京北翔」(3053件/80%)などがあります。

3.代理事務所クライアントランキング

2016-2020年公開特許30000件以上で外国出願人割合が比較的多い代理事務所10社のクライアントを別表1~4に示した(TOP20のみ)。参考情報として2006-2011年公開特許数とランキング情報を、出願人の国籍(日本、欧米、韓国、中国)に応じて以下のように色別にしました(欧米と韓国の色別が少し見づらいですが)。

また、2016-2020年公開特許取扱いが30000件未満ではあるが、日本出願人比率が高い「北京林达刘」および「北京银龙」についても別表5に示しました。

既に紹介してきたセミナー資料(10年前の2006-2011年公開特許情報)との比較も交えて(表5)考察すると、この10年間で日本出願人の取扱い比率が若干低くなり、欧米出願人にシフトしていることが表5および別表1~5から何となくわかります。

表5.クライアント比率の変化

4.代理事務所のコンフリクト

2016-2020年公開特許取扱数について代理事務所のコンフリクトを見てみました。電機分野、化学分野については日本出願人のみについて、自動車分野については欧米の出願人についても示しました。
代理事務所の各出願人取扱数のマトリクスを、電機分野、自動車分野、化学分野のように示し、それぞれ50件以上の取扱いがあるものについてはマークしました。表中の出願人のすべてが50件未満の代理事務所については割愛しています。マトリクス下部には各出願人の2016-2020年公開特許数を示しています。
また、マトリクス上位の日本出願人について、2011-2020年公開の推移も数値で示しました。単に全期間の取扱数だけではわからない「以前は重点を置いて依頼していたが、最近では依頼を減らしている」なども読み取れるのではないかと思います。

表6.電機分野出願人

表7.電機分野上位出願人の取扱い推移

表8-1.自動車分野出願人(日本)

表8-2.自動車分野出願人(欧米他)

表9.自動車分野上位出願人(日本)の取扱い推移

表10.化学分野出願人

表11.化学分野上位出願人の取扱い推移

5.まとめ

前回は、機械分野、鉄鋼分野など様々な分野について、IPCなど事業分野別の解析も加えたが、今回は代理事務所の最新動向の概略を紹介する程度となりました。HUAWEIやOPPOなど注目を集めている通信分野なども加え、機会を改め、詳細情報を紹介したいと思います。

代理事務所のコンフリクトについて

電機分野など出願件数が多い出願人からすると、同一代理事務所で競合他社とのコンフリクトがあっても事業分野でコンフリクトしていなければ問題ない、とも言えますが、その点を代理事務所に確認しているのでしょうか。代理事務所サイドからは、「競合関係にある出願人からの依頼では担当者(担当部署)を分けて処理しています」と、情報のコンタミがないことを信用してもらう他ないのかもしれません。
最近では、取扱い事務所も大幅に増えたとはいえ、内国出願とは異なり、英語明細書や各国原語明細書から中国語に(もちろん誤訳することなく)翻訳する必要もあり、事務取扱経験だけでなく翻訳経験も豊富な事務所に依頼することになるので「競合他社が取扱っている事務所は極力避けて・・」というのも難しいところがあるかもしれません。

6.別表図

別表1.

別表2.

別表3.

別表4.

別表5.

7.参考別表図

参考別図1.2000-2010年日本出願人公開特許取扱数

参考別表1.2000-2010年日本出願人公開特許電機分野の代理事務所コンフリクト

参考別表2.2011-2015年外国出願人特許取扱ランキング

参考別表3.2011-2015年新興代理事務所公開特許取扱ランキング

2010年前後に事務取扱を始めた31社(特許取扱数3000件以上)について解析

参考別図2.新興代理事務所の取扱推移(2011-2015年公開特許)

参考別図3.北京科亿のクライアント、取扱分野(2011-2015年公開特許)

参考別図1、別表1は、「中国特許代理人事務所を評価する」(2012年)から引用
目 次 「中国特許代理人事務所を評価する」
1.はじめに
2.中国専利代理人と専利代理事務所の状況
3.中国専利代理人および専利代理事務所制度
4.中国専利代理事務所の実態
4.1 国営・公営事務所から民営事務所への移行
4.2 専利代理事務所ランキング
4.3 専利代理事務所識別コード検索
4.4 出願取扱推移と特許登録率等ランキング
4.5 IPC分野別の特徴
4.6 外国特許取扱い専利代理事務所
4.7 専利代理事務所とコンフリクト

参考別表2~参考別図3は、「新興専利代理事務所の動向」(2016年) から引用

参考文献
1)中国特許庁専利代理事務所データベース
http://dlgl.cnipa.gov.cn/txnqueryAgencyOrg.do
2)知了網
http://www.izhiliao.com.cn/agency/agencybyranks.aspx?t=0
3)2020年全国知识产权服务业统计调查报告
https://www.cnipa.gov.cn/module/download/down.jsp?i_ID=155978&colID=88

以上