バングラデシュってどんな国?

■ バングラデシュ特許は調査できる?

バングラデシュの特許は調査できないのかとの質問を受けました。商用DBを少々調べてみると、Derwent Innovationでも収録なし。Orbitにも収録なし。「商用DBに何も入っていないということは、おそらくDOCDBでも・・・」と思ってEspacenetで試してみると予想どおり1件もヒットしませんでした。もともとアジアには興味が薄そうなDOCDBではなく、この数年アジアに力を入れているPATENTSCOPEで探してみてもバングラデシュ発行の案件は何も入っていません。

同国知財庁では、http://www.dpdt.gov.bd/ で立派なサイトを公開しているのですが、ここでも特許検索エンジンは用意されていないようです。

色々と探し回ったところ、http://www.dpdt.gov.bd/site/page/ddda49a0-dcb2-497a-bc66-b373ebea2e76/- で、こんなページが見つかりました。

2014年5月から2020年12月の6年半の間に、Gazetteが23回発行されていました。幸いにも特許情報が英語で記載された電子テキストPDFファイルです。段組みPDFファイルから情報を取り出すのは非常に面倒ですが、ベンガル語の画像PDFファイルだと手も足も出ません。少々頑張ってみることにしました。

■ 2種類のガゼット

先の一覧を見るとわかるように、「Accepted Patent Application」名の文書が18文書、「New applications received in 20## for patent grant」が5文書収録されています。名称からは公開特許情報が記された文書と登録特許情報文書のように感じますが、バングラデシュでは公開制度は採用されていません。JETROから発行された「2019年度インドIPG/特許商標ワーキンググループ報告書/バングラデシュの知財概況」によると、
出願公開制度はないが、出願が認容された出願は、付与前異議申立を受け付けるため、書誌事項等がジャーナルとして公告される
とのこと。

一例をご紹介します。LM Ericsson社から出願された「出願番号:108/2016」の特許は
2017/03/16付けの「New applications received in 2016 for patent grant」名のガゼットにも、
2018/05/03付けの「Accepted Patent Application」名のガゼットにも収録されています。

この日付を見る限りでは「New applications received in 20## for patent grant」名で発行される文書(以降GZT1と呼びます)が、付与前異議申立を目的としたガゼット発行であり、特許査定後に発行される文書(GZT2とします)が「Accepted Patent Application」ではないかと思われます。

特許調査者にとって困るのは、GZT1で得られる情報は

だけです。さらにGZT2でも、

のように要約止まり。双方のガゼットで入手できる書誌情報を一覧に表すとこのように。

GZT1が付与前異議申立を目的としたガゼットでありながら、発明の内容を類推できる情報が「出願人名」と「発明の名称」に限られていることが、日本における特許調査の常識に慣れた筆者にはかなり不可解です。「出願人名」と「発明の名称」だけを読んで何かを感じれば、知財庁に出向いて包袋を閲覧して異議を申し立てろということなのでしょうか・・・。バングラデシュで特許を調査するには霊感も養う必要がありそうです。

前記した一覧に記された、全てのガゼットに収録された特許の件数は次のように。

本来ならばGZT2はGZY1の真部分集合になるはず。133件ものアイテムが付与前異議申立のために開示されていない理由は不明です。またバングラデシュで出願された全特許のうち1,489件はIPCも知ることができません。さらにパリルート経由での案件が多数と想定される新興国であるにも関わらず、優先権情報も把握できません。同国での技術動向を類推するための情報源は、特許情報全体の約1/3だけに限定されてしまうようです。

このような若干乏しい情報源ではありますが、得られた分析結果をいくつかご紹介します。

■ 出願件数

知財庁WEBサイトでは
http://www.dpdt.gov.bd/site/page/cda6b625-2ebd-4354-bc48-46e40c14656d/-
で「統計情報/Latest Statics」として1972年以降の出願件数も公開されています。前述のガゼットから得られた件数情報を青色のバーで、統計情報のページから得られた件数をオレンジのバーでグラフ化してみました。

ガゼットが公開されている年度が限られていますが、公開された情報には矛盾はなさそうです。知財庁内に2013年・2014年の情報も残っているのならぜひ開示してもらいたいものです。

しかしガゼット情報と統計値情報に、グラフから視認できるような差が確認されない状態でありながら、前述のベン図で示した133件が存在するという事実も見つかっています。この133件はいつ出願された案件なのか、グラフ横軸のどの位置に投影される案件なのか疑問です。

■ IPC付与個数

続いて同国の案件には、どの程度の個数のIPCが付与されているのかを調べてみました。グラフの横軸が出願年、縦軸が特許件数です。棒グラフの色わけが、IPCが付与された個数を表しています。全てのガゼットに記された案件数を母集団として集計すると、左側のグラフのようになります。そもそもGZT1にしか収録されていない案件はIPC情報が含まれていないため、大多数の案件ではIPCが付与されていないように見えてしまいます。そこで集計する母集団を収録された書誌情報にIPC情報が含まれるGZT2の案件群に絞ってみました。右のグラフになります。

「Accepted」まで処理が進んだ案件だけを母集団とすると、同国ではほぼすべての案件にIPCが付与され、さらにIPCが1個しか付与されていない案件の件数が半数以下という結果。ストラスブール協定に加盟していない新興国でありながら、この付与率は素晴らしい結果。

■ 技術分野

「Accepted」まで処理が進んだ案件を母集団として、付与されたIPCコードを、WIPOが規定する技術分野にコンコーダンスして、出願年ごとのバブルグラフを描いてみました。「Ⅰ-06.コンピュータテクノロジー」・「Ⅲ-02.バイオテクノロジー」・「Ⅲ-03.製薬」等の「流行りの」技術分野への出願が少ないことが同国特許の特徴のようです。ただ「Accepted」に到達していない案件にはIPCが付与されず、分析した母集団がどの程度全体の傾向を表しているのか少々不安が残るところです。

■ 出願人ランキング

どこの誰がバングラデシュに注力・注目しているのかを知るために、ガゼットに収録された全特許の出願人のランキング上位20社を集計してみました。出願人名はGZT1・GZT2いずれのガゼットでも収録されているため、母集団は全出願案件です。

金メダルはスウェーデンの通信機メーカーのERICSSON、銀がスイスのバイオ系企業のSYNGENTA、銅がインドの二輪自動車メーカーのTVSという結果です。4位には同国の公的機関のBCSIR バングラデシュ科学産業研究評議会が入りました。

東南アジアでは上位常連の日本の自動車メーカーや電機メーカーも20位までに現れてきません。バングラデシュにはまだ少々興味薄のようです。

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同国知財庁の内部システムとして、WIPOが提供するIPASが採用されているようです。東南アジア諸国のように、今後バングラデシュでもWIPOのIPAS版の特許検索データベースが導入される可能性も高く、特許調査環境は大きく改善されることを期待したいです。

まだまだ知財環境が十分に整備された国とは言えませんが、総人口1.7億人、平均年齢24歳、現時点のGDPの低さからは、市場としても製造拠点としても今後ますます重要になる国と考えられます。

この原稿の執筆時ではバングラデシュのコロナ新規感染者数は減少傾向であり、過去のピーク時の40%程度まで低下したとのこと。インドをはじめとする南アジアでのコロナ禍の早期の終息を祈るばかりです。

アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン株式会社 中西 昌弘