中国特許データベースの実態

2021/2/11

アジア特許情報研究会:伊藤徹男

1.中国特許出願推移

中国専利(特許、実用新案、意匠)の出願推移を中国特許庁(CNIPA)が発表している統計情報 1) を元にグラフ化すると図1のようになります。特許については2016年まで急上昇してきましたが、2017年以降横ばい状況です。実用新案は相変わらず急上昇を続けています。

図1.中国専利出願推移(CNIPA統計情報 1))

※2020年出願分は2021年2月11日現在、1月~11月分までしか公表されていないため2月末に修正予定。

CNIPAが公表した出願統計数値は変わることはありませんが、データベースに収録された公開特許数などを出願年基準で取得している場合には、毎週のデータ更新で積み上がり変化しますので、いつ取得したデータであるかを明らかにしておくことが重要です。(CNIPRでは火曜、金曜にデータが更新されます)

データベースから得る数値は出願~公開(登録)までのタイムラグの影響でCNIPAの数値にはすぐには到達しないし、公開前の出願取下げなどもあるので時間をおいても同一になることはありません。どのぐらいのタイムラグがあるかについては、次節「遅延公開・登録」で紹介します。

CNIPAの統計数値とデータベースから得られる数値を(特許に限定して)重ねると図2のようになります(2021/2/11現在)。2019年出願以降の乖離は主に公開のタイムラグによるものです。以前にも「早期公開特許」として紹介しましたように 2) 出願~6か月以内に公開されるものが全公開の70%にも達していますので、日本など(出願~公開は18か月以降)とは違ってタイムラグは小さいのですが。

図2.公開及び有効登録特許

また、日本版CNIPRでは有効な(生きている)特許・実用新案を抽出することもできますので図2に現時点(2021年2月)で有効な特許の推移についても示しました。図2のデータベースから検索した「公開特許」には出願して公開前に取下げられたものなどは含みませんが、審査未請求で見做し取下げになったもの、公開後取下げたもの、審査前及び審査中の未登録特許が含まれます。

公開特許も審査請求してはじめて審査されますが、出願~3年以内の期限内に審査請求しないと「見做し取下げ」となり失効します。(日本や韓国のように公開特許となる前には、審査請求しても審査されませんから「登録」になるようなことはありません) 審査を経て登録となった特許も年金を納付してはじめて権利行使できる有効特許となります。そして、維持年金を納付し続けなければ失効します。

権利侵害調査(クリアランス調査)では、この有効なもの及び公開特許で失効しているものを除いて調査すればよいことになります。図2を見てお分かりのように出願特許(公開特許)に比べて、登録になり権利ある特許となるのはそれほど多くはないのです。特に、内国(中国)出願人が「登録」となった後、特許では10年以上年金を支払って権利維持しているケースは少ない状況です。 「最近の中国特許は把握しきれないほどの出願の伸び」と大騒ぎもされていますが、権利侵害調査の観点からはそうでもないのです。むしろ、調査対象の侵害性の有無を判断する内容の特許や実用新案を如何に洩れなく把握するか、の方が重要です。

死んだと思っていた特許が生き返ったりなど、特許情報の生死の議論は「東アジア特許の生死情報(その1.中国)」3) やINFOPRO2015での発表資料 4) をご覧ください。

日本版CNIPRの生死情報で、出願から20年以上(実用新案の場合には出願から10年以上)経過しているものがデータベースに「生」として存在している 3) ということがありますが、逆に、出願から20年以内の特許(出願から10年以内の実案)についても本来は失効となっているにも拘らず「有効」なフラグが立って、「生きている」とされているものがあるかもしれません。生死情報の確認では、中国版CNIPRなど複数のデータベースでも調査が必要です。

2.特許、実用新案の遅延公開・登録

各国特許法にも定められているように中国においても出願書類は「出願日から満 18 カ月後に公開する。」(中国専利法第三十四条)とあり、同条には「出願者の請求に基づき、その出願を繰り上げて公開することができる。」(早期公開)ともあります。 日本や韓国、台湾などはほぼ規定通り18か月後に公開されていますが、中国の場合はむしろ早期公開の方が多いことをこれまでに紹介しました 2)5)。最近の早期公開(実案については早期登録)の動向を別表図にも紹介します。

本稿では早期公開とは別に出願から数年を経て公開される特許(遅延公開と定義)について議論することにします。 別表図1(早期公開特許)や別表図3(早期登録実用新案)で紹介した図では月単位に出願~公開(登録)がどの程度あるかをカウントしていますが(例えば2020年1月に出願された特許が2020年1月~6月までに公開されたものを「出願~6か月」としています)、遅延公開の議論ではもっと荒っぽく年単位としましたのでかなり違和感のある数値となっていることをご了解ください。

つまり、2019年1月~12月に出願されたものが2019年に公開になったもの、2020年に公開になったものなどとしています。極端な場合、2019年12月31日に出願され2020年1月に公開されれば、「2019年出願で2020年公開」になったものとしてカウントしています。そりゃないよ、と言われそうですが。 遅延公開の議論でも少なくとも月単位のカウントにすればイメージの異なる情報になると思いますが、ここではざっくりと年単位での公開状況としました。(1日単位の出願~公開の推移については、研究会の西尾さんがJIPAセミナーで紹介しています。)

参考までに「月単位で取得している出願~公開」までの数値を別表図2に示しましたが、これでは出願から数年経て公開される特許について議論するのが難しいので「ざっくり」と(表1)。

表1.中国公開特許の推移

この年単位の出願年と公開年の情報は1990年以降、2020年末まで手元にありますが2001年出願のものの権利期間が2021年末までであることから2001年~2003年出願特許について議論したいと思います。

表1の左(2001年~2003年出願)を見てわかるように出願から5,6年経過しても、さらには15年以上経過してもなお公開されるものがあります。表1の右に示した2010年~2012年出願分の出願から12年以降については今後も同様に「公開」が続くということになります。

一方では、早期公開特許が他国に比べて多く、その多くが出願から18か月以内に公開される事実があるのに、出願から3年を過ぎてもなお公開されるものがある、ということは何故かと考えたときに、1つは分割の問題ではないかと分割の公開数についても調べました。(データベースの不具合かどうか不明ですが、出願年全年代にわたって2018年~2020年の公開特許、登録特許、実用新案の分割情報が取得できていません。)

その結果、やはり出願から3年以降に公開となっているものに分割分が含まれるようになり、出願から5,6年以降公開分のほとんどは分割特許という状況です。中には分割案件ではないものも含まれますが、分割も含め、遅延公開となっているものの詳細は後日検証したいと思います(分割するほど重要な特許なのかどうか)。 分割案件の多くは外国出願人によるものがほとんどですので、その分野や出願人などについても調べてみたいと思います。別表図にWIPO35分類による出願データを示しました。

図3.分割案件の書誌情報(中国版CNIPR)

比較情報として、日本と韓国の公開特許推移を示しました。

表2.日本と韓国の公開推移

日本の場合にはさほどではありませんが、韓国の出願~3年以降の公開分には分割が増え、4年以降の案件ではほとんどが分割という状況です。KIPRISの場合には、分割情報を抽出するフィールドがなく、詳細情報中のKindフィールドに「Divisional application」とあり、この情報で「分割」の確認ができます。また、韓国特許の分割案件の多くはPCT特許のようですが、この点についてもさらに検証する必要がありそうです。

別表図4には中国特許登録の推移を示しました。審査に時間を要することもあり、出願から登録まで長期にわたることも理解できますが、中には出願から15年以上経過して登録されるものもあります。これもそこまで頑張って登録にしたものがどんな内容のものか興味があるところです。

別表図5には中国実用新案登録の推移を示しました。登録まで長期にわたるものはなさそうです。 別表図6に出願各年の分割出願数を示しました。

3.中国特許出願番号付与の謎

どの国の出願番号も原則、出願日順に付与されるものと思われますが、中国では必ずしもそうでもないようです。

表3.CN2010年初公開特許出願番号

表3は2010年の特許出願番号を昇順に並べ、出願日を確認したものです。2010年の最初の出願番号1番CN201010000001.8(ドット以下の1桁の番号は枝番)以下、15番までは1月4日出願になっています。1月1日~3日まではお正月でお休みかと思いきや、正月にも出願されています。

そして1月1日出願案件111件のうち、CN201010001463.1とCN201010001574は表3の下部に点在します。残りの109件はどこにあるのでしょうか。また、1月4日出願がCN201010039518.8ととんでもなくジャンプした番号でも存在します。 2020年1月1日出願特許も113件存在しますが、CN202010020281.2などとジャンプしています。

さらに年末の状況を見たものが表4です。出願番号を降順に並べています。

表4.CN2010年末公開特許出願番号

出願番号CN2010の最大番号及び他の2件は分割出願案件なので別格としても、ここでも必ずしも最大番号が12月31日出願にはなっていません。年末の出願件数は以下のようになっています。

これらのことから中国の出願番号は出願日順に付与されている訳でもなさそうです。 では、台湾、韓国ではどうかも見てみましょう。

表5.TW2010年初公開特許出願番号

表6.TW2010年末公開特許出願番号

表7.KR2010年初公開特許出願番号

表8.KR2010年末公開特許出願番号

台湾や韓国では出願日順に出願番号も付与されています。

4.中国特許の出願番号密度(収録率)

データベースの収録率の1つの考え方として、データベースで検索した特定年の出願総件数をその年の出願番号最大値で除算した値を「出願番号密度」と定義した収録率をJETRO報告書(「ASEAN6か国知財庁が提供する産業財産権データベースの調査報告」)の中で研究会の中西さんが紹介しています。そこで、この「出願番号密度」という捉え方を中国特許収録状況の1つの指標として適用してみました。

表9は、出願番号を10000件ごとに区切ってその収録数を確認したものです。100%収録されていれば10000件となります。年号のすぐ後の数字1は内国出願特許、2は内国出願実用新案、8はPCTからの移行特許、9はPCTからの移行実用新案です。

表9.中国公開特許の出願番号密度(内国出願特許)

特許庁に出願した後、出願番号が付与され、公開までに取下げたり、特許庁からの対応にアクションしなかったりして見做し取下げになるものがあるので、台湾、韓国、日本の各国とも出願数の90%程度が公開特許としてデータベースに収録されます。(各国の収録状況は割愛します)

表9の内国特許の2005年出願番号で見てみると、CN20051とつく公開特許は125,746件あります。そしてCN20051の最大番号はCN200510200907ですから、出願番号CN20051の収録率は125,746/200,907=62.6%ということになりますが、よく見ると最大出願番号が含まれるCN20051020%(742件)の前に60000件もの空白の部分があります。番号が空白の理由は定かではありませんが、この部分をゼロと見做して算出すると125,746/140,907=89.2%ということになります。

このように算出した修正前と修正後のデータが表10-1(空白部修正前)と表10-2(空白部修正後)となります。(但し、表中の数字は2016年に調査したもので2014年以降のデータは若干欠落もあります)

表10-1(修正前)

表10-2(修正後)

青くマークした部分が空白番号を修正したところです。修正によって内国出願特許ではほぼ80%以上の収録率になりましたが、内国出願実用新案では80%未満が多い状況です。PCTからの移行特許の収録率は極めて高い収録率を示していますが、実用新案はそうでもないようです。

出願番号空白の極め付きは2010年の出願番号です。CN20101%で収録されている総数は298,703件ですが、最大番号は何とCN201019176009で、間に1万件単位で124万件もの空白があります。さすがにこれは表10-1,10-2では異常として処理しましたが、CN2010191%でカウントされる338件については後日その内容を検証してみたいと思っています。

何故このように(表9)ジャンプした番号が付与されるのか中国特許庁に確認したいところです。また、出願番号の空白問題は置いておくとしても10~20%のデータベース未収録(公開前取下げ、OA未対応などによる見做し取下げ)がこんなに多いものかと驚かされます。

5.まとめ

①特許も実用新案も急激な出願の伸びを示しているが、登録特許さらにはそれが生きている有効特許(権利ある特許)は出願数に比べるとかなり少ない。

審査前の有効な(生きている)公開特許及び審査中の公開特許を有効登録特許に加えて権利侵害調査の対象にし、調査対象分野に絞って調査する訳であるが、その数は驚くほど多くない。

②中国の公開特許は「出願から1年以内の早期公開」の比率が高く、出願から3年以上に公開になるものは少ないように思われるが、分割出願も多く出願から5年以上(場合によっては10年以上)、分割出願による公開が続く。

分割までして権利化する、そして5年や10年を経てまで分割出願する意味ある特許であるのかどうか検証してみたいものである。(いわゆる、それほどかわいいと思う子の「親の顔が見てみたい」というところ)

③台湾、韓国、日本などの出願番号は出願日順に付与されているが、中国特許の場合には出願日順に付与されているわけではなさそうです。

④中国特許のデータベース収録率を「出願番号密度」という観点から調べてみました。

中国国内(内国)に出願された特許の収録率は中国特許庁に出願された案件のおおむね80~90%、内国出願の実用新案の収録率は同じく70~80%、PCTから移行された特許はほぼ100%ですが、PCTから以降の実用新案は母数も少ないせいか収録率にもばらつきが見られます。

まだまだ不明な点が多い中国特許情報ですが、解明までに至らずとも今後とも問題点を指摘していきたいと思っています。

余生もあとわずかというのにこんなつまらないことで時間をつぶして自己満足している昨今です。

別表図1:早期公開特許出願推移

別表図2:早期公開特許出願推移も元データ

別表図3:早期登録実用新案出願推移

別表図4:中国特許登録の推移

別表図5:中国実用新案登録の推移

別表図6:出願各年の分割数

別表図7:中国特許出願情報(WIPO35分類)

別表図8:中国特許分割情報(WIPO35分類)

上記別表図のデータは2021年2月11日現在のものです。

参考文献:

1)CNIPA統計情報

https://www.cnipa.gov.cn/col/col61/index.html

2) 中国早期公開特許

https://sasiapi.org/2020/08/%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e6%97%a9%e6%9c%9f%e5%85%ac%e9%96%8b%e7%89%b9%e8%a8%b1/

3) 東アジア特許の生死情報(その1.中国)

https://sasiapi.org/2020/09/%e6%9d%b1%e3%82%a2%e3%82%b8%e3%82%a2%e7%89%b9%e8%a8%b1%e3%81%ae%e7%94%9f%e6%ad%bb%e6%83%85%e5%a0%b1%ef%bc%88%e3%81%9d%e3%81%ae%ef%bc%91%ef%bc%8e%e4%b8%ad%e5%9b%bd%ef%bc%89/

4)中国・台湾特許データベース法律状態情報活用

http://patentsearch.punyu.jp/asia/INFOPRO2015_C41.pdf

5) 中国における早期公開・早期登録特許の実態(2014)

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201407/jpaapatent201407_079-085.pdf

中国早期公開特許の最新動向(2019)

http://www.tokugikon.jp/gikonshi/292/292kiko01.pdf

以上

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