東アジア特許の生死情報(その1.中国)

2020/9/5
アジア特許情報研究会:伊藤徹男

SDIなどで関連情報として収集した特許は、解析などと共に「ウォッチング」として定期的にその生死情報を確認することが日常的に行われています。自社出願の場合には年金納入期限が近づいた案件の今後の年金納付をどうするか判断したり、納付期限が過ぎたものでも追納が可能なものの扱いをどうするかなど棚卸がなされます。他社出願の関連特許については失効特許などをウォッチングリストから除外したりして再解析などを実施したりします。

中国、台湾、韓国特許の生死情報は、それぞれCNIPR、TWPAT、KIPRISで確認していますが、いずれも若干の問題を含んでおり、注意が必要です。ここではこれら3国の法律状態情報(審査経過情報)などを紹介し、その問題点について議論します。

特許(実案)の生死情報は極めて重要な問題にも拘わらず、東アジア特許情報の生死情報が公の場で発表されたり、WEBなどでも議論されたりすることはほとんどありません。多くの知財情報の研究会でも議論(ワーキング)されたりはしているものと思われますが、その研究内容はクローズドとなっているため確認のすべもありません。

中国および台湾の法律状態情報は2015年のINFOPROで紹介しましたが、それを基に若干の考察を加えてみました。

中国・台湾特許データベース法律状態情報活用

http://patentsearch.punyu.jp/asia/INFOPRO2015_C41.pdf

1.中国の法律状態情報と生死

INFOPRO2015では、中国特許の審査フロー図などと共に、公開後取下げがあったものも「取下げの取消」や、「取下げ」されたものがいつの間にか「授権」(登録)になっていたという問題、「見做し取下げ」後のものが、授権になっているなど(包袋情報を確認してはじめて「権利回復請求」がなされていることを確認できるなど)、CNIPRの法律状態情報だけでは確認できない「死」から「生」への復活などについて議論しました。

最終法律状態情報が「授権」で生死状態が「有効」(生きている)となっているから「生」、あるいは、「授権」後、「专利权的终止」で終わっているから「死」と判断するのは早計かもしれません。

日本版CNIPRに「有効/無効」で生死が確認できる機能が付与されて間もない2014年の研究会ワーキングで早速、その生死情報を確認すべく、出願されたもののうち各年でどのぐらい有効なものが存在するか確認したところ、特許では出願から20年以上経過したもの、実案では10年以上経過したものが「有効」になっているのに気が付き、「有効/無効」の機能に疑問を持ちました。その当時は、これら失効しているはずの特許(実案)を「幽霊特許」として議論しました。

再度、出願から20年以上経過した特許、10年以上経過した実案について日本版CNIPRで有効/無効を確認したところ、状況は同様でした。表1でマークした部分のものはCNIPRの法律状態情報の表記に拘わらず「無効(失効)」のものです。

[表1.日本版CNIPRによる中国出願特許・実案の有効数(2020/4現在)]

中国特許・実案の有効数

したがって、出願から20年以内の特許(出願から10年以内の実案)についても本来は失効となっているものも「有効」のフラグが立てられて生きているものがあるかもしれない、ということです。

生死情報のウォッチングの観点からは、失効しているものが「有効」になっているものが多少存在しても大きな問題はありませんが、逆に、失効して「無効」とされているものが「生きている」ということの方が大問題です。拒絶で無効とされたものが審判などで有効となる例もありますが、これはデータベースに反映されないこともあります。

CNIPRの法律状態情報には概略、以下のものがあり、最終の法律状態情報で生死(有効/無効)が判断されているものと思われます。

a)有効(生)
 公开(公開)
 实质审查(審査請求) (实质审查的生效、实质审查请求の表記あり)
 审定(審査中) (中国版CNIPRの検索結果一覧に「在审」の表記あり)
 授权(公告後、年金納付することで登録になる)
  (中小企業などを対象に一定期間(数年)年金未納でも有効に権利が存在する
   特例もあるが、ここでは議論しない)

b)無効(死)
视为撤回(見做し取下げ)
 申请的撤回(出願取下げ) (撤回的专利申请、公布后的撤回の表記もあり)
 驳回(拒絶)
 未缴年费/未缴纳年费(年金未納)
 有效期届满(有効期限満了) (中国版CNIPR検索結果一覧に「有效期届满」の表記)
 专利权的终止(専利権の終了)

権利の有効期限満了でも最終法律状態が「公开」「实质审查」「审定」「授权」で終わっている場合、日本版CNIPRでは「有効」とされるようです。

さらに、出願日は1990年で権利期間満了にも拘らず、また、「未缴年费专利权终止」(年金未納)で権利終了もしているのに、その後の最終法律状態で「发明专利公报更正」などと記載されているもの(AN:CN90101290.4)などが日本版CNIPRでは「有効」とされています。

同様に、権利期間満了で失効のものだけでなく、上記に挙げた失効理由項目(無効項目)があっても、その後の最終法律状態に「著录项目变更」「专利权的转移」などの記載があれば日本版CNIPRでは「有効」とされるので注意が必要です。

[表2.1999年出願の日本版CNIPRにおける法律状態情報(有効とされているもの)]

法律状態情報(有効とされているもの)

しかし、中国版CNIPRでは権利期間満了で失効のものは、最終法律状態が「公开」「实质审查」「审定」「授权」「发明专利公报更正」「著录项目变更」「专利权的转移」などで終わっていても検索結果一覧のStatusには「有效期届满」または「无效」の表示がなされています(図1)。

有効期限満了特許の表記

[図1.有効期限満了特許の表記(中国版CNIPR)]

また、日本版CNIPRには図2のように個々の案件の「詳細法律状態」として年金納付がいつまでなされたのか、などの状況を確認できる機能などが最近追加されている。(4,5年前までは年金納付などのデータベースが別途存在したが現在は見当たらないが、その代替であろうか。)

図2の案件は、有効期限満了にも拘らず「有効」とされているもの。新規な機能についても便利なことが多いが、収録された情報が正しいかどうかを確認してから利用することが肝要と思う。

詳細法律状態情報で最終年金納付時期を確認

[図2.「詳細法律状態」情報で最終年金納付時期を確認できる]

有効期限満了にも拘らず「有効」とされている例には以下のようなものもある。

出願番号 :CN03145765.7
法律状態公告日:2019.07.23
法律状態:专利权的终止
法律状態情報:专利权有效期届满 申请日:19990628 授权公告日:20061129 终止日期:无

“失効とされたものが生きている例”の方が余程深刻な問題である。この詳細は、先に紹介しましたINFOPRO2015「中国・台湾特許データベース法律状態情報活用」の
「失効(死)と判断していたら ⇒ いつの間にか有効(生)になっていた」および「問題あるパターン(法律状態情報だけでは確認できない)」を参照ください。

最後に有効期限満了の案件ではあるが、失効理由項目(無効項目)の日本版、中国版CNIPRの収録状況を見ておこう。

[表3.日本版CNIPRの失効理由存在数(2020/9/5現在)]

失効理由存在数

[表4.中国版CNIPRの失効理由存在数(2020/9/5現在)]

中国版CNIPR失効理由存在数

表項目の略称は、いずれも上記失効理由を略したものです。マークした部分がそれぞれのデータベースで異なる収録です。差の詳細については解析していません。主に1990年以前の古い情報に何か問題があるようです。最新の5年間についても参考までに調べてみました。その結果、日本版および中国版CNIPR共に同数の収録でした。

[表5.日本版および中国版CNIPR最近5年の失効理由存在数(2020/9/5現在)]

最近5年の失効理由存在数

もちろん、直近の出願数はデータベースの収録が更新されるたびに増加します(このデータは来週火曜の更新で変化します)。このように注釈をつけておいても、データが独り歩きしてしまうので「出願年推移のデータ」は私は「好きではありません」。

結論は、権利侵害関係など重要な案件は日本版、中国版両方のCNIPRおよび包袋情報を確認すべき、ということです。

次回は、「2.台湾の法律状態情報と生死」です。

以上